第23回「手づくり紙芝居コンクール」<ジュニアの部 優秀賞>
ハニワのひみつ
紀伊風土記の丘は、国の特別史跡「岩橋千塚古墳群」の保全と公開を目的として一九七一年八月に開館した、考古・民俗資料を中心とした和歌山県立の博物館施設です。園内は六五ヘクタールの広さがあり、四三〇基以上の古墳が点在します。
八月二十日の夜のことです。ここ紀伊風土記の丘で働く職員のセンヅカさんが、家に帰ってくつろいでいると、ふと展示室の戸締りを忘れてしまったことを思い出します。
「あー、しまった!」
センヅカさんは、何かあっては大変だと思い、あわてて車を走らせて、展示室に向かいました。
「やっぱり・・・。」
自動ドアの鍵が開いたままでした。
「念のために、中を確認して帰ろう。」
センヅカさんが、中に入ろうとした、その時・・・。
カタカタ、ゴトゴト。
展示室の奥の方から、何か物音がします。ビクビクしながら、中をのぞいてみると、ガラスの展示棚の中のハニワがありません。
「どろぼうか?」
センヅカさんは、心の中で思いました。
怖くて背筋がゾクゾクしていました。そして、そーっと、そーっと扉を開けて中に入ろうとしました。
「絶対に逃がさないぞ。」センヅカさんは思いました。
カタカタ、ゴトゴト。
「そこに居るのは誰だぁ!!」
センヅカさんは、大声で叫びました。
そして、
「えっ?」
あまりにもびっくりしたので、少し間をあけてまた、
「えーーーっ?」
その声に、ハニワが一斉に振り向きました。
「あらら、見つかっちゃった。」
一体のハニワが言いました。
「ハ、ハニワがしゃべったぁ?」
センヅカさんは、驚きを隠せません。
「夢か?」
センヅカさんが、目をこすりながら、つぶやくと、
「夢じゃないよ。」
とハニワが言いました。
そして、「一緒に遊ぼうよ。」
と、ハニワがセンヅカさんの手を握ると、ハニワの魔法で、センヅカさんが、みるみるうちに小さくなってしまいました。
現実を受け入れられずに、ボーっとしているセンヅカさん。
ハニワたちは、そんなことは気にせず、その横で、遊び始めます。
展示していた「まが玉」をブーメランのように飛ばして遊んでいるハニワが居ます。
-ヒュヒュ、ヒュヒュヒューン。
「首飾り」で輪投げをして遊んでいるハニワも居ます。
-クルクルクル、トン。
その様子を見て、センヅカさんも、何だか楽しくなってきました。そして、
「みんな、ケガをしないように気を付けて遊ぶんだよ。」
センヅカさんも、馬型ハニワにまたがって、走り出しました。
-パカラッ、パカラッ。
気持ちよく走っていると、
-ゴロン、ゴロン。
両面人物ハニワです。
「こんばんは、私は人物ハニワ。表にも裏にも顔がある、とっても珍しいハニワなのよ。私と、にらめっこして遊びましょ。」
「にらめっこしましょ、笑うと負けよ。アップップー。」
「わはははは。」
センヅカさんは、ハニワの何とも言えない顔に吹きだしました。
「顔が二つもあるなんて、ずるいよー。わはははは。」
人物ハニワは得意顔です。
-ドシン、ドシン。
「今度は誰?」
「僕は、家形のハニワ。この展示室で、一番大きなハニワだよ。今度は、僕と相撲をとろう。」
センヅカさんは、何だか嫌な予感。
「はっけよい、のこった、のこった。」
センヅカさんは、ひょいと投げられてしまいました。
「よーし、もう一回!」
すると、周りのハニワも応援し始めました。
「はっけよい、のこった、のこった。」
「がんばれ、がんばれ。」
何回やっても同じです。投げられてしまうのはセンヅカさんです。
「やっぱり、一番大きいだけあって、強いね。」
家形ハニワは、
「エッヘン。」
センヅカさんとハニワたちは、時間を忘れて遊んでいました。
もうすぐ夜明けです。そろそろ展示棚に戻らないと、みんなに見つかってしまいます。
センヅカさんの前に、スーッと、翼を広げた鳥形のハニワが飛んできました。
「私の背中に乗ってください。元の世界に戻してあげます。」
センヅカさんが、
「みんなありがとう。楽しかったよ。また明日、遊ぼうね。」
と、お礼を言うと、ハニワたちが言いました。
「私たちも楽しかったよ。でも、明日は遊べない。一年に一度、八月二十日のハニワの日だけは、こうして遊べるんだよ。」
それから、こうも言いました。
「もし、このことを誰かに話したら、あなたもハニワになっちゃうから気を付けてね。」
センヅカさんを乗せて、鳥形ハニワは飛び立ちました。
気が付くと、センヅカさんは車の中で眠っていました。
「あれれ?」
やっぱり夢だったのかと思いながら、仕事に向かおうと、車を降りると、ひらひらとメモが一枚落ちました。そのメモを見ると、
-またハニワの日に-
と、書いてありました。
センヅカさんが、展示室の様子を見に行くと、いつも通り、ハニワが並んで展示されていました。一つずつ、見て回りながら、センヅカさんは心の中で言いました。
「また、来年ね。」
なんとなく、人物ハニワが、笑ったように見えました。